自社システムをAWSとMicrosoft Azureの両方で運用している企業は少なくありません。しかし、これまで2つのクラウド間を安全かつ高速に接続しようとすると、BGPルーティングの設定や物理クロスコネクトの手配、サードパーティ製ミドルウェアの導入など、複雑なDIY型の構築作業が避けられませんでした。そのコストや運用負担に頭を悩ませているIT担当者は多いでしょう。
そのような課題に対し、2026年8月末から9月にかけてAWSとMicrosoftが共同で「AWS Interconnect マルチクラウド(Azure対応)」のパブリックプレビューを開始しました。両社が提供するマネージドサービスとして、AWS VPCとAzure仮想ネットワークをプライベートかつ高速に接続できる仕組みです。本記事では、このサービスの概要・特徴・企業が押さえるべきポイントをわかりやすく解説します。
AWS Interconnect マルチクラウドとは何か

「AWS Interconnect マルチクラウド」は、AWSが2025年のre:Inventで仕様を公開したクラウド間プライベート接続サービスです。2026年4月にGoogle Cloudとの接続がGA(一般提供)となり、同年7月にはOracle Cloud Infrastructure(OCI)もGAに到達。そして8〜9月、最大規模のクラウドプロバイダーであるMicrosoft Azureとの接続がパブリックプレビューとして開始されました。
このサービスの最大の特徴は、接続の確立をマネージド化した点にあります。AWSのAmazon VPCとAzureの仮想ネットワーク(VNet)をレイヤー3のプライベート接続でつなぎ、トラフィックはAWSのグローバルバックボーンとAzureのプライベートネットワークのみを経由します。パブリックインターネットは一切経由しないため、情報漏えいリスクを最小限に抑えられます。
Azure側では「Azure Multicloud Interconnect」という名称でExpressRoute基盤上に実装されており、AWS Direct Connectと組み合わせて動作します。オープン仕様(Apache 2.0ライセンス)で公開されており、特定ベンダーへのロックインを避けた設計になっているのも評価ポイントです。
従来の接続方法と何が変わるのか

これまでAWSとAzureをプライベート接続する一般的な方法は、主に以下の2つでした。
・**DIY型VPN/専用線**:AWS Direct ConnectとAzure ExpressRouteを別々に契約し、BGPルーティングを自前で設定する方式。設計・構築・監視をすべて自社で行う必要があり、ネットワーク専門知識が必須でした。
・**サードパーティ接続サービス**:EquinixなどのコロケーションやSD-WANを活用する方式。柔軟性はありますが、コストと管理の複雑さが増します。
AWS Interconnect(Azure対応)では、こうした煩雑な作業が大幅に簡素化されます。AWSコンソール上でリージョン・帯域幅を選択するだけで接続オブジェクトが生成され、Azure側ではExpressRoute回線にMulticloud Interconnectポートタイプを作成してアクティベーションキーを交換するだけで接続が完了します。複雑なBGPタイマーの調整や物理クロスコネクトの手配は不要です。また帯域幅はコンソール上でオンデマンドに増減でき、再プロビジョニングは必要ありません。
現在のプレビューでは最大1Gbps(1顧客・1リージョンあたり)ですが、GA時には最大100Gbpsまでの高帯域オプションが提供予定です。
対応リージョンと現時点での制限事項

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パブリックプレビューの段階では、利用可能なリージョンに制限があります。現在サポートされているクロスクラウドリージョンペアは以下の4つです。
・**米国東部**(AWS us-east-1 ↔ Azure East US)
・**米国西部**(AWS us-west-2 ↔ Azure West US)
・**オーストラリア/APAC**(AWS ap-southeast-2 ↔ Azure Australia East)
・**ドイツ/ヨーロッパ**(AWS eu-central-1 ↔ Azure Germany West Central)
日本リージョン(AWS ap-northeast-1 / Azure Japan East)への対応は現時点で未発表ですが、GA時に拡充される見通しです。日本国内でAWS・Azure双方のサービスを利用している企業は、今後の発表を注視しておく必要があります。
また、プレビュー期間中は1顧客あたり1リージョンペアのみの利用、帯域上限1Gbps、正式なSLAなしという制約があります。本番基幹システムへの適用は、GA後に正式なSLAと高帯域オプションが確定してから検討するのが現実的です。プレビュー期間を活用して接続検証や性能評価を先行実施しておくと、GA後のスムーズな移行に役立ちます。
企業にとってのメリットと活用シナリオ

このサービスが普及することで、企業のマルチクラウド活用に次のようなメリットが生まれます。
**① セキュリティ向上**
パブリックインターネットを経由せずにクラウド間通信が完結するため、盗聴・中間者攻撃のリスクが大幅に低減します。金融・医療・製造など機密データを扱う業種でのクラウド活用が前進するでしょう。
**② ネットワーク運用コストの削減**
専門的なネットワークエンジニアがいない企業でも、コンソール操作のみで接続を構築・管理できます。帯域の増減もオンデマンドで行えるため、繁忙期だけ帯域を拡張するといった柔軟な運用が可能です。
**③ AIエージェント・RAGワークロードへの対応**
生成AIの活用が広がる中、AWSのBedrockとAzure OpenAI Serviceを組み合わせる構成や、RAG(検索拡張生成)でAWS側のデータベースとAzure側のAIモデルをプライベート通信でつなぐ構成が低遅延・低コストで実現できます。
**④ ベンダーロックイン回避**
オープン仕様であるため、特定クラウドへの依存度を抑えながら最適なサービスを組み合わせる選択が容易になります。コンプライアンス上のリスク低減にもつながります。
IT担当者が今すぐ確認すべき3つのポイント

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このサービスへの対応を検討する際に、まず確認しておきたいポイントを整理します。
**1. 自社のマルチクラウド構成の把握**
現在AWSとAzureの両方を利用しているか、それぞれの主要ワークロードは何かを改めて整理しましょう。クラウド間でデータやAPIを頻繁にやり取りしている構成がある場合、このサービスの恩恵が大きくなります。
**2. 接続コストの試算**
プレビュー期間中の無料利用枠(500Mbps)を活用して、性能・遅延・コスト感を先行検証することが可能です。AWS料金計算ツールやAzure料金計算ツールで概算コストを確認し、既存のVPN・専用線コストと比較してみましょう。
**3. セキュリティポリシーとの整合性確認**
プライベート接続であっても、ネットワークセキュリティグループ(NSG)やAWSセキュリティグループのルール整備は必要です。また、クロスクラウド通信がコンプライアンス要件(ISMS、SOC2等)に適合するか法務・セキュリティ部門と連携して確認してください。特に日本リージョン未対応の現状を把握した上で、本番適用のロードマップを策定することをお勧めします。
よくある質問
AWS Interconnect マルチクラウド(Azure対応)は現在無料で使えますか?
AWSは500Mbpsの無料利用枠を提供しています。プレビュー期間中に接続検証や性能評価を無料で実施できますが、それ以上の帯域や追加リージョンは別途料金が発生する場合があります。最新の料金はAWSの公式料金ページで確認してください。
日本リージョン(東京)はいつ対応しますか?
2026年10月時点で日本リージョン(AWS ap-northeast-1・Azure Japan East)への対応は未発表です。GA(一般提供)のタイミングで拡充される見通しと予想されますが、具体的な時期はAWSおよびMicrosoftの公式発表をご確認ください。
既存のAWS Direct ConnectやAzure ExpressRouteと共存できますか?
はい、共存可能です。Azure Multicloud InterconnectはExpressRoute基盤上に実装されており、既存のExpressRoute回線と並行して利用できます。既存のオンプレミス接続を維持しながら、クラウド間接続のみ本サービスに移行するといった段階的な導入も現実的です。
このサービスを使うにはどのような専門知識が必要ですか?
従来のDIY型接続と比べて必要な専門知識は大幅に軽減されています。AWSコンソールの基本操作とAzure PortalのExpressRoute設定の基礎知識があれば接続を確立できます。ただしセキュリティグループやネットワークポリシーの設定は引き続き必要なため、ネットワーク・セキュリティの基礎知識は求められます。