ある朝、社員から「WordやExcelを開いたら突然『ライセンスのない製品』と表示され、編集ができなくなった」という問い合わせが殺到する――これは多くの企業IT担当者が経験するMicrosoft 365の代表的なトラブルです。機能制限モードに入ったOfficeアプリは、文書の閲覧・印刷はできても新規作成や編集ができず、業務が一時停止に追い込まれる深刻な問題です。
原因は一つではなく、サブスクリプションの期限切れ・アカウント認証情報の破損・ネットワーク接続の問題・Windows Updateによる認証トークンの消失など複数が絡み合います。本記事では、原因の切り分け方から具体的な復旧手順まで、初心者でも迷わず実行できるように順を追って解説します。
「ライセンスのない製品」エラーとは何か

Photo by Ed Hardie on Unsplash
Microsoft 365(旧Office 365)のWordやExcel、Outlook、PowerPointなどのアプリを起動したとき、タイトルバーや画面上部に「ライセンスのない製品」(英語環境では "Unlicensed Product")と赤字で表示されることがあります。この状態になると、ほとんどの編集機能が無効化された「機能制限モード」に移行し、ファイルの閲覧・印刷のみが可能となります。
このエラーが発生するのは、OfficeアプリがMicrosoftのライセンス認証サーバーに対して有効なライセンスを確認できなかった場合です。Microsoft 365はサブスクリプション型のため、定期的にインターネット経由でライセンスの有効性を確認する仕組みになっています。この確認が何らかの理由で失敗すると、たとえ正規のライセンスを持っていても本エラーが表示されます。
重要なのは「ライセンスが本当に無効」なのか「認証処理が失敗しているだけ」なのかを最初に切り分けることです。後者であれば、ユーザー側の操作だけで比較的短時間に解決できるケースがほとんどです。
主な原因を把握する――まず「なぜ起きているか」を特定しよう

Photo by Sasun Bughdaryan on Unsplash
対処法を実行する前に、エラーの原因を絞り込むことが解決への近道です。主な原因は以下の4つに分類できます。
【① サブスクリプション・ライセンスの問題】
・Microsoft 365のサブスクリプション期限が切れている
・管理者によるライセンス割り当てが解除・変更された
・社員の退職・異動に伴うアカウント無効化
【② 認証情報の問題】
・パスワード変更後にOfficeアプリの認証情報が古いまま残っている
・Windows資格情報マネージャーに保存された情報が破損している
・職場アカウントと個人アカウントが混在してコンフリクトを起こしている
【③ ネットワーク・通信の問題】
・30日以上インターネット未接続の状態が続いた(リモートワーク端末に多い)
・プロキシやファイアウォールがMicrosoftの認証エンドポイントへの通信をブロックしている
【④ アップデートや環境変更による問題】
・Windows UpdateやOffice更新後に認証トークンが失われた
・PCのリプレース・OS再インストール後に再認証されていない
Microsoft 365管理センター(admin.microsoft.com)にアクセスし、対象ユーザーのアカウントにライセンスが正しく割り当てられているかを最初に確認するのがIT担当者の第一ステップです。
【手順1・2】サインインと資格情報マネージャーのリセット

Photo by Clint Patterson on Unsplash
ライセンス割り当てに問題がなければ、まず認証情報のリセットから始めます。
【手順1:Officeアプリから一度サインアウトして再サインイン】
1. WordやExcelを起動し、左上の「ファイル」→「アカウント」をクリックする
2. 「サインアウト」をクリックし、アカウントからログアウトする
3. アプリを一度終了し、再起動する
4. 「サインイン」をクリックし、Microsoft 365のライセンスが紐づいた職場アカウント(会社のメールアドレス形式)で再ログインする
これだけで解決するケースも多くあります。解決しない場合は手順2へ進みます。
【手順2:Windowsの資格情報マネージャーから古い認証情報を削除する】
1. スタートメニューで「資格情報マネージャー」と検索して開く
2. 「Windows資格情報」タブを選択する
3. 一覧の中に「MicrosoftOffice16」や「MicrosoftOffice365」などが含まれるエントリがあれば、それぞれを展開して「削除」をクリックする
4. PCを再起動し、Officeアプリを起動して再サインインを試みる
パスワード変更後に本エラーが発生した場合、この手順2が特に有効です。古い認証情報がキャッシュされており、新しいパスワードと競合することで認証に失敗しているケースが多いためです。
【手順3・4】Officeのオンライン修復とライセンス管理ツールの活用

Photo by Bernd 📷 Dittrich on Unsplash
手順1・2で解決しない場合、Officeアプリ自体のファイルが破損している可能性があります。
【手順3:Officeのオンライン修復を実行する】
1. 「スタート」→「設定」→「アプリ」→「インストールされているアプリ」を開く
2. 「Microsoft 365」または「Microsoft Office」を探し、右側の「…」→「変更」をクリックする
3. 「オンライン修復」を選択して「修復」をクリックする(「クイック修復」より時間はかかるが効果が高い)
4. 修復完了後、PCを再起動してOfficeアプリを起動し、再サインインする
オンライン修復はOfficeのプログラムファイルをMicrosoftのサーバーから再取得して修復するため、インターネット接続が必要です。所要時間は環境によりますが15〜30分程度を見込んでください。
【手順4:ライセンス管理ツール(ospp.vbs)で重複ライセンスを確認・削除する(IT管理者向け)】
複数のOfficeライセンスがPCに残存している場合、コマンドプロンプト(管理者として実行)から以下のコマンドで状況を確認できます。
cscript "C:\Program Files\Microsoft Office\Office16\ospp.vbs" /dstatus
複数のプロダクトキーが表示された場合、不要なキーを /unpkey:XXXXX(末尾5文字を指定)で削除することで競合が解消されるケースがあります。この手順は誤操作のリスクがあるため、IT管理者が実施してください。
解決しない場合のエスカレーションと再発防止策
上記の手順をすべて実行しても改善しない場合は、以下のエスカレーション手順を検討してください。
【それでも解決しない場合の追加対処】
・Microsoftアカウントのサインインページ(account.microsoft.com)で、サブスクリプションの状態と有効期限を直接確認する
・Microsoft 365管理センターで該当ユーザーのライセンスをいったん削除し、再割り当てする
・Officeを完全アンインストールし、Microsoft公式の「Office 展開ツール(ODT)」または公式サイトから再インストールする
・Microsoftサポートへケースを起票する
【今後の再発防止策】
企業として以下の運用を導入することで、同様のトラブルを未然に防げます。
・定期的なライセンス棚卸し:Microsoft 365管理センターで月次または四半期ごとにライセンス割り当て状況を確認する
・ネットワーク接続の確保:長期出張・在宅勤務の端末でも月1回はVPN経由でインターネットに接続し、ライセンス認証を自動更新させる
・アカウント変更時の手順整備:異動・退職・パスワードリセット時のOfficeサインイン確認を標準手順に組み込む
・更新プログラム適用後の動作確認:Windows UpdateやOffice更新後は代表ユーザーでOffice起動確認をルーティン化する
ライセンス認証エラーは再発しやすいトラブルのひとつですが、原因の切り分けと手順化により対応時間を大幅に短縮することができます。
よくある質問
「ライセンスのない製品」エラーが出ても、ファイルのデータは消えませんか?
データは消えません。このエラーは認証状態の問題であり、既存のファイルには影響しません。機能制限モード中はファイルの閲覧・印刷のみ可能で、認証が回復すれば通常通り編集できるようになります。
パスワードを最近変更してからエラーが出るようになりました。関係ありますか?
関係があります。パスワード変更後にOfficeアプリの認証情報が古いままキャッシュされると、認証に失敗してエラーが表示されます。Windowsの「資格情報マネージャー」から古いOffice関連のエントリを削除し、再サインインすることで多くの場合は解決します。
複数の社員で同時に同じエラーが発生しました。どう対応すればよいですか?
複数ユーザーで同時発生している場合、サブスクリプションの期限切れ・Microsoftサービス障害・ネットワーク環境の問題が疑われます。まずMicrosoft 365管理センターとMicrosoftサービス正常性ダッシュボードを確認し、テナント全体の状態を把握してください。
オンライン修復を実行するとOfficeの設定やデータは初期化されますか?
オンライン修復はOfficeのプログラムファイルのみを修復するもので、作成済みのファイルや個人設定(署名・テンプレートなど)は基本的に保持されます。ただし念のため、修復前に重要なファイルのバックアップを取ることを推奨します。