「うちはまだ大丈夫」——そう考えている企業のIT担当者こそ、今回のデータを直視してほしい。警察庁は2026年9月10日、「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」を公表し、国内のランサムウェア被害が2026年上半期(1〜6月)だけで123件に達したことを明らかにしました。これは統計開始以来、半期ベースで過去最多の件数です。被害の約6割は中小企業であり、「大企業だけの問題」ではありません。さらに生成AIを悪用した攻撃の高度化や不審なアクセス数の急増も報告されており、脅威の質・量ともに深刻さを増しています。本記事では、同レポートのポイントを整理したうえで、企業が優先して講じるべき具体的な対策を分かりやすく解説します。
2026年上半期のランサムウェア被害:数字で見る深刻な実態

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警察庁の発表によると、2026年上半期のランサムウェア被害報告件数は123件。2020年下半期に統計を開始して以来、半期ベースで最多の記録です。
被害の内訳を見ると、企業規模別では中小企業が79件(全体の約64%)、大企業が31件、団体等が13件でした。業種別では製造業が37件(約30%)でトップ。続いて卸売・小売業(15件)、情報通信業・不動産業・医療福祉(各9件)と続いており、特定の業種だけでなく幅広い分野が標的になっています。
さらに深刻なのが被害額と復旧期間です。調査・復旧費用が総額1,000万円以上に達した組織の割合は全体の6割に上り、1カ月未満で復旧できた組織は全体の5割弱にとどまっています。つまり、残り5割以上は復旧に1カ月以上を要するか、発表時点でもまだ復旧中という状況です。ランサムウェア攻撃は「一時的なシステム停止」では済まず、事業継続そのものを揺るがすリスクであることを、改めて認識しておく必要があります。
攻撃の入口はどこか:VPN機器の脆弱性が依然として主要経路

被害を受けた企業への調査では、感染経路の約5割がVPN機器などネットワーク境界機器の脆弱性を悪用したものでした。在宅勤務の普及に伴い、多くの企業でVPN機器の利用が拡大していますが、ファームウェアのアップデートが遅れていたり、設定が不適切なままになっていたりするケースが後を絶ちません。
これに加えて注目すべき点として、攻撃側が利用するインフラを短期間で切り替える実態も今回の報告で明らかになっています。従来のブロックリスト型の防御だけでは追いつかない、動的な脅威への対応が求められる状況です。
また、脆弱性探索などの不審なアクセスは1日・1IPアドレス当たり1万3,687件に達し、前年同期比50.7%増という急増ぶりです。攻撃者は日々、組織の穴を探し続けています。自組織のVPN機器・リモートデスクトップサービスのバージョンや設定を今すぐ確認することが急務です。
新たな脅威:生成AIを悪用した攻撃の高度化

2026年の脅威情勢で新たに注視すべき点が、生成AIの悪用です。警察庁の報告では、生成AIを用いることで専門的な知識がなくても攻撃プログラムの作成や改変が可能になり、サイバー攻撃が高速かつ大規模に行われるリスクが高まっていると指摘されています。
具体的には以下のような悪用が報告・懸念されています。
・フィッシングメールの高精度化:生成AIにより、日本語として非常に自然なフィッシングメールが大量生成できるようになり、従来のような「不自然な文章」によるフィルタリングが通用しにくくなっています。
・マルウェア・攻撃コードの自動生成:プログラミング知識が低い攻撃者でも、AIを利用して高度な攻撃ツールを容易に作成できる環境が整いつつあります。
・IoT機器の踏み台利用:管理が行き届きにくいIoT機器をボットネットとして悪用し、大規模攻撃の足がかりにするケースも増加傾向にあります。
生成AIの普及は業務効率化の武器である一方、攻撃者にとっても強力なツールになっている点を、経営層・IT担当者は共に認識する必要があります。
企業が今すぐ実施すべき5つの優先対策

警察庁のレポートや各セキュリティ機関の知見を踏まえ、IT担当者がまず着手すべき対策を優先度の高い順に整理します。
①VPN機器・境界機器のファームウェアを最新版に更新する
侵入経路の約5割を占めるVPN機器の脆弱性対応は最優先事項です。利用中の機器のベンダーサイトを確認し、未適用のパッチがあれば速やかに適用してください。
②多要素認証(MFA)の全面導入
認証情報の漏洩による不正ログインを防ぐため、VPNやリモートデスクトップ接続には必ずMFAを設定します。
③バックアップの3-2-1ルールを実践する
データを3つ以上保持し、2種類のメディアに保存、うち1つはオフライン(またはオフサイト)に保管します。バックアップが暗号化されても即座に復旧できる体制を整えてください。
④EDR(エンドポイント検知・対応)ツールの導入
従来のウイルス対策ソフトでは検知できない高度なマルウェアに対応するため、EDRや次世代アンチウイルス(NGAV)への移行を検討します。
⑤社員向けのセキュリティ教育を定期実施
生成AIで精巧になったフィッシングメールを見抜くための訓練を定期的に行い、疑わしいメールの報告フローを整備しましょう。
中小企業こそ「自分事」として捉えるべき理由

「大企業が狙われる問題」と考えている中小企業の担当者は要注意です。今回のデータでは被害の約64%が中小企業であり、むしろ中小企業のほうが標的になりやすい状況といえます。その理由としては以下が挙げられます。
・セキュリティ専任担当者がいない、または少ない
・大企業と比べてシステム更新の予算・人手が限られている
・サプライチェーン上の踏み台として狙われるケースが増加している
取引先の大企業が強固なセキュリティを構築していても、連携先の中小企業が弱点になれば、そこを経由して侵入される「サプライチェーン攻撃」のリスクが高まります。実際、大企業からのセキュリティ要件の提示を取引条件とするケースも増えており、セキュリティ対策は受注機会にも影響しつつあります。
警察庁は2026年4月に「警察におけるサイバー戦略」を改定し、被害未発生の段階でも事業者からの依頼に基づく「セキュリティ診断」を実施しています。まずはIPA(情報処理推進機構)や各都道府県警察のサイバー相談窓口など、無料で利用できる公的リソースを積極的に活用することを検討してください。
よくある質問
ランサムウェアに感染した場合、身代金は支払うべきですか?
警察庁や各セキュリティ機関は身代金の支払いを推奨していません。支払っても確実にデータが復元される保証はなく、「支払う組織」として再び狙われるリスクもあります。感染が判明したら即座にネットワークから隔離し、再起動せずに警察へ通報・相談することが推奨されています。
VPN機器のどこを確認すればよいですか?
まず利用中の機器のメーカー・型番を確認し、ベンダーの公式サイトで最新ファームウェアが適用されているかを確認してください。また、デフォルトパスワードの変更・不要なリモートアクセス設定の無効化・アクセスログの定期確認も合わせて実施することが重要です。
セキュリティ対策に予算をかけられない中小企業はどうすればよいですか?
IPA(情報処理推進機構)が提供する無料の「情報セキュリティ対策ベンチマーク」や各都道府県警察のサイバー犯罪相談窓口を活用しましょう。OS・ソフトウェアの自動更新の有効化、MFAの導入、定期バックアップなど、低コストで実施できる対策から優先して取り組むことが重要です。
「ノーウェアランサム」とは何ですか?従来のランサムウェアとどう違いますか?
従来のランサムウェアはデータを暗号化して復号と引き換えに身代金を要求しますが、ノーウェアランサムはデータを暗号化せず、窃取したデータを公開・売却すると脅して金銭を要求する手口です。バックアップで復旧できても情報漏洩を防げないため、データの持ち出し監視が不可欠となります。