「退職者のSaaSアカウントが削除されていなかった」「誰がどのクラウドサービスを使っているか把握できていない」——こうした悩みを抱えるIT担当者は少なくないはずです。クラウドサービスの急増とAIツールの普及により、企業のID・アクセス管理(IAM)はかつてないほど複雑化しています。そうした状況に応えるべく、クラウド人事労務ソフト「SmartHR」を運営する株式会社SmartHRが2026年7月28日、IAM領域への本格参入を発表しました。人事・労務データと連動した独自のアプローチで、情シス部門の業務効率化とセキュリティガバナンスの強化を同時に実現しようとする取り組みです。本記事では、その概要と企業が得られるメリットを詳しく解説します。
なぜ今、企業のID管理が限界を迎えているのか

リモートワークの定着やDX推進の加速によって、企業が業務で利用するSaaSの数は急増しています。SmartHR社が情報システム部門を対象に実施した調査では、従業員500名以上の企業では平均16.8個のSaaSを管理していることが明らかになっており、担当者の多くがアカウント管理業務に大きな負担を感じています。
さらに近年は、従業員が会社の承認を得ずにAIツールや外部Webサービスを業務利用する「シャドーIT」「シャドーAI」の問題が深刻化しています。把握できていないサービスへのデータ流出や、アクセス権の管理漏れは、情報漏洩やセキュリティインシデントの温床になりかねません。
また、入社・異動・退職のたびに各SaaSのアカウントを手動で作成・変更・削除する作業は、ミスが発生しやすく担当者の残業増加にもつながっています。特に退職者のアカウントが削除されないまま残存するケースは、不正アクセスリスクとして経営層からも重大視されるようになっています。こうした複合的な課題を解決するためのIAM基盤の整備が、今まさに急務となっています。
SmartHRのIAM参入——3つの柱で一気通貫の管理を実現

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SmartHRは今回の本格参入にあたり、IAM領域を次の3つの取り組みで構成しています。
**1. 外部サービス利用の把握・検知(シャドーIT検知)**
従業員のブラウザ拡張機能を通じて利用ログを収集し、情シスが把握していない外部SaaSやAIツールの利用状況を可視化します。検知したサービスごとに利用従業員・最終利用日・利用日数などを確認でき、管理対象への追加や利用停止の判断が容易になります。この機能は2026年7月15日より先行提供が開始されています。
**2. アカウント管理の高度化**
SmartHR上の人事データ(入社・異動・退職情報)と各外部サービスのアカウント情報を連動させ、誰がどのSaaSアカウントを保有しているかを一元可視化します。人事異動に応じた自動的なアカウント作成・削除・変更を実現し、手動オペレーションによるミスを削減します。
**3. アクセス管理の強化(SSO対応・パスワード管理)**
SSO対応サービスにはSmartHRを入口としたログインを、非対応サービスにはID・パスワードの安全な保管と自動入力の仕組みを提供します。パスワードの使い回しや、メール・紙によるパスワード共有の削減につながります。部署・チーム単位の共有アカウント管理も計画されており、退職時の回収漏れ防止にも貢献します。
「人事データ」を強みにした差別化ポイント

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従来のIAMソリューションと比較したSmartHRの最大の差別化点は、「リアルタイムに更新され続ける人事・労務データ」をIAM管理の基盤として活用できる点です。
一般的なIAMツールでは、人事システムとの連携設定が複雑で、異動・退職情報のIAMへの反映にタイムラグが生じるケースが珍しくありません。その間にアクセス権の剥奪が遅れ、セキュリティ上のリスクが生じることがあります。
SmartHRの場合、雇用契約や入社手続き、異動処理といった労務手続き自体がSmartHR上で行われるため、人事データの鮮度が高く、アカウント管理との連動をほぼリアルタイムで実現できます。たとえば退職手続きが完了した時点でアカウントを自動停止する、といった運用が可能になります。
また、2026年5月にはAPIに対応していないWebサービスのアカウント情報をAIがブラウザ操作で自動取得・反映する「ブラウザ自動操作」機能も提供開始されており、連携できるサービスの範囲も広がっています。すでにSmartHRを人事労務ソフトとして導入している企業にとっては、追加の初期設定コストを抑えながらIAM機能を利用できる点も魅力です。
情シス担当者が今すぐ確認すべき自社の課題チェックリスト

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SmartHRのIAM機能を検討する前に、自社のID管理の現状を棚卸しすることが重要です。以下の項目に1つでも当てはまる場合は、IAM基盤の整備を優先的に検討する価値があります。
**自社の課題チェックリスト**
- □ 退職者のSaaSアカウントが本当にすべて削除されているか自信がない
- □ 従業員が会社非公認のAIツール・Webサービスを業務利用しているか把握できていない
- □ 入社・異動のたびに複数のSaaSで手動アカウント設定を行っており、工数がかかっている
- □ 各SaaSのアカウント一覧と従業員名簿が一致しているか定期的に確認できていない
- □ パスワードをメールやチャットで共有しているケースがある
- □ 部門ごとに独自のSaaSを導入しており、情シスが全体を把握しきれていない
特にSaaS利用数が多い中堅・大企業では、手動管理の限界が顕在化しやすい状況です。まずは自社で利用しているSaaSの棚卸しから着手し、管理が属人化しているツールを特定することが第一歩です。
導入前に知っておくべき注意点と今後の展開

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SmartHRのIAM機能を検討する際には、以下の点に注意が必要です。
**既存のIAMツールとの棲み分けを整理する**
すでにMicrosoft Entra ID(旧Azure AD)やOktaなどのIdPを導入済みの企業では、SmartHRとの役割分担を明確にする必要があります。SmartHRは「人事データを起点にしたアカウント管理」を強みとするため、既存IdPとの連携・補完利用が現実的な選択肢になるケースも多いでしょう。
**SSO非対応サービスの扱いを確認する**
パスワード保管・自動入力の機能(SSO非対応サービス向け)は2026年中に順次提供予定です。現時点ではSSO対応サービスが先行リリースされているため、自社が利用するサービスの対応状況をあらかじめ確認しておきましょう。
**シャドーIT検知はブラウザ拡張機能の展開が前提**
ブラウザ拡張機能を従業員端末にインストールする必要があるため、MDMなどの端末管理ツールとの組み合わせが前提になります。BYODが多い環境では展開方法の検討が必要です。
今後SmartHRは、AIエージェントを活用した自律的なアクセス権管理や、他社比較データを活用した組織分析にも取り組む方針を示しており、IAMをきっかけに人的資本経営の基盤としてさらなる機能拡張が期待されます。IAM領域は導入効果が定量化しやすい分野でもあるため、経営層への投資説得においても比較的取り組みやすいテーマといえます。
よくある質問
SmartHRのIAM機能は、すでにOktaやMicrosoft Entra IDを導入している企業でも使えますか?
利用可能です。SmartHRは人事・労務データを起点にしたアカウント管理に強みを持つため、既存のIdPと連携・補完する形での利用が想定されます。自社の構成に合わせて役割分担を整理した上で検討することをお勧めします。
シャドーIT検知機能はどのように動作しますか?従業員のプライバシーへの影響は?
従業員のブラウザに拡張機能をインストールし、業務利用している外部サービスの利用ログを収集します。収集するのはどのサービスにアクセスしたかという情報であり、通信内容の傍受ではありません。ただし導入前に社内ポリシーや従業員への説明を整備することが重要です。
退職者のアカウント削除はどのタイミングで自動化されますか?
SmartHR上で退職手続きが完了した人事データと連動し、連携済みの外部SaaSのアカウントを自動で無効化・削除する仕組みです。連携対応済みのサービス範囲に依存するため、導入前に対象SaaSの対応状況を確認することを推奨します。
SmartHRをまだ導入していない企業でも、IAM機能だけを利用できますか?
IAM機能はSmartHRの人事・労務データを基盤とする設計のため、SmartHRを人事労務ソフトとして利用していることが前提となります。IAM単独での導入については、SmartHR社への個別問い合わせが必要です。